一杯のコーヒーが届くまで —— 遥かなる旅路

一杯のコーヒーが届くまで —— 遥かなる旅路

私たちが普段目にする焙煎豆。その前身である「生豆(なままめ・きまめ)」がどのようにして作られるのか。それは、遠い異国の地で紡がれる、気の遠くなるような手間と時間の物語です。

具体的な精製方法の話に入る前に、まずはコーヒーチェリーが辿る旅の全体像を眺めてみましょう。

1. 栽培と収穫 —— すべての始まり

赤道直下のコーヒーベルト。豊かな土壌と気候の中で、コーヒーノキは白い花を咲かせ、やがて真っ赤な果実(コーヒーチェリー)を実らせます。その完熟した一粒一粒を、人の手で丁寧に摘み取るところから、品質への挑戦は始まります。

2. 精製(プロセス) —— 種子を取り出す技

収穫したチェリーから、私たちが必要な「種子」を取り出す工程です。 
コーヒーの実は、外側から「外果皮」「果肉」「ミューシレージ(粘液質)」「パーチメント(内果皮)」という何層ものコートを着ており、その中心に大切な「種子(生豆)」が守られています。

これらをどのように脱がせていくか。そのアプローチの違いが、後述する「ウォッシュト」や「ナチュラル」といった精製方法の違いであり、味わいの個性を決定づけます。

3. 乾燥 —— 命運を分ける水分コントロール

精製と並んで、品質を左右する極めて重要なのがこの「乾燥」です。(※後ほど詳しく触れます)

4. 選別・キュアリング・輸出 —— 旅立ちの準備

乾燥を終えた豆は「パーチメント」の状態で倉庫で一定期間寝かせられ(キュアリング)、水分を均一化させます。その後、脱殻して生豆の状態にし、大きさや欠点豆の有無を厳しく選別。こうして選び抜かれた豆だけが麻袋に詰められ、海を渡り、私たちの元へと届くのです。

 



「乾燥」—— 生豆の品質を守る最後の砦

どの精製方法を選んだとしても、避けて通れないのが「乾燥」の工程です。

収穫直後のコーヒーチェリーは、約60〜70%もの水分を含んでいます。これをそのままにしておけば、すぐにカビが生えたり、腐敗してしまいます。逆に乾燥させすぎれば、豆の細胞が壊れ、風味や生命力が失われてしまいます。

目指すのは、生豆の水分含量を**「10〜13%前後」**に安定させること。 それは、生豆が長期間の輸送や保管に耐え、かつ美味しさを閉じ込めておくための「黄金比」です。この数値を目指し、産地では神経を使う作業が続きます。

乾燥方法は大きく分けて2つあります。

天日乾燥(サンドライ)

—— 太陽と風の恵みで仕上げる、伝統の手法。 広大なパティオ(乾燥場)や、風通しの良いアフリカンベッド(高床式の棚)に豆を広げ、太陽光と自然の風でゆっくりと乾かしていく方法です。

・特徴: 急激な熱が加わらないため、豆へのストレスが少なく、フレーバーが穏やかに熟成されると言われています。

難点: 天候に左右されるため、雨季がある産地ではリスクが伴います。また、均一に乾かすために絶えず人の手で豆を撹拌(かくはん)する必要があり、大変な重労働です。

コロンビア ナリーニョ ブエサコ サンタ・フェ 天日乾燥

機械乾燥(マシンドライ)

—— 現代の技術がもたらした、安定と効率。 巨大なドラム式の乾燥機などに豆を入れ、温風を当てて乾燥させる方法です。

特徴: 天候に関係なく、短時間で均一に乾燥させることができます。特に湿度が高い地域や、収穫量が多い大規模農園では不可欠な設備です。

注意点: 温度が高すぎると豆の風味を損なうため、低温でじっくりと時間をかけるなど、細心の温度管理が求められます。

コーヒー 大型乾燥機

現在では、天日乾燥である程度水分を抜いた後、仕上げに機械乾燥を使って数値をピタリと合わせる、というハイブリッドな手法をとる農園も増えています。

どの方法であれ、乾燥とは「豆のポテンシャルを固定する」作業。造り手たちが最後に心血を注ぐ、静かなる闘いの場なのです。

Back to blog