コーヒーの「個性」はどこから来るのか? ——品種という名の設計図を読み解く

コーヒーの「個性」はどこから来るのか? ——品種という名の設計図を読み解く

「この品種は、何が違うんですか?」

店頭のディスプレイに書かれた「カトゥーラ」や「SL28」といった名前を見て、そう尋ねてくださるお客様が増えました。以前は「ティピカ」や「ブルボン」といったクラシックな品種が主流でしたが、今、コーヒーの世界はかつてないほど多様な品種に彩られています。

今回は、品種を単なる「流行」としてではなく、その**「成り立ちと役割」**から紐解いてみましょう。品種を知ることは、目の前の一杯が持つ「味の設計図」を読み解くことでもあるのです。


そもそも、なぜこんなに「品種」が多いのか

コーヒーの木には無数の種類がありますが、私たちが楽しむスペシャルティコーヒーのほとんどは**「アラビカ種」**というグループに属しています。

実は、アラビカ種は非常にデリケート。病気や害虫、気候変動に弱く、常に絶滅の危機と隣り合わせです。しかし、その弱さと引き換えに**「突然変異や交配が起きやすく、それが味の個性として現れやすい」**という、魔法のような性質を持っています。

この「変わりやすさ」こそが、私たちが多様なフレーバーを楽しめる理由であり、同時に農家さんたちが環境に適応するために心血を注いで品種改良を行ってきた歴史そのものなのです。


すべての原点、そして進化の系譜

1. 聖域の基準点:ティピカ(Typica)

すべての始まりと言える品種です。

味わい: クリーンで素直。派手さはありませんが、雑味のない透明感があります。

特徴: 収穫量が少なく、病気にも非常に弱い。 まさに「基準」となる味ですが、栽培の難しさから、今では希少な存在になりつつあります。

2. 甘みのサラブレッド:ブルボン(Bourbon)

ティピカから突然変異で生まれた、甘みの強い系統です。

味わい: どっしりとした甘みと、角の取れた丸みのあるコク。

特徴: 「イエローブルボン」のように実の色が変わるものもあり、その濃厚な甘みは世界中で愛されています。

3. 現場の救世主:カトゥーラ(Caturra)

ブルボンの突然変異で、背丈が低く育つようになった品種です。

役割: 木が低いため、急斜面でも収穫しやすく、管理がしやすい。

味わい: ブルボンの甘みを引き継ぎつつ、育つ環境(テロワール)によって表情をガラリと変える面白さがあります。

4. 安定という名の信頼:カトゥアイ(Catuai)

カトゥーラとムンドノーボを交配し、さらにタフに、さらに安定して収穫できるように開発されました。

役割: 厳しい風雨にも耐え、品質を安定させやすい。

味わい: 派手さよりは「バランス」に長けており、日常に寄り添うクリーンなコーヒーを支えています。

5. ケニアの至宝:SL系(SL28 / SL34)

アフリカのケニアで、研究機関(Scott Laboratories)によって選抜されたエリートたち。

味わい: カシスやベリーを思わせる、鮮烈な果実感と力強い酸。

特徴: 管理は容易ではありませんが、一度飲んだら忘れられない「品種の個性」を強烈に放ちます。


なぜ、クラシックな品種から移り変わっているのか

最近、カトゥーラやカトゥアイ、SL系などが増えてきたのは、決して「昔の品種の方が美味しかった」からではありません。

そこには**「気候変動」と「生産者の暮らし」**という切実な背景があります。

温暖化による病害(さび病など)からコーヒーを守り、毎年安定して収穫を得ること。それは農家さんの生活を守るために不可欠な選択です。私たちが今、美味しいコーヒーを安定して飲めるのは、品種がその「役割」を変え、進化し続けてきた結果なのです。


【店主の視点】品種は「答え」ではなく「前提条件」

品種を「味を決める最終回答」だとは思っていません。

品種はあくまで、**「味をデザインするための設計図(前提条件)」**です。 どんなに素晴らしいSL28でも、焙煎がその個性を無視してしまえば台無しになります。逆に、カトゥアイのような安定した品種から、驚くような甘みを引き出すのが焙煎士の腕の見せ所です。

同じ火の入れ方をしても、品種が違えば、語りかけてくる言葉(フレーバー)は全く変わります。

次に豆を選ばれるときは、ぜひその「名前」の裏にある物語を想像してみてください。その一杯が、もっと深く、面白いものに変わるはずです。

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